仙台高等裁判所 昭和25年(う)232号 判決 1950年7月26日
被告人
赤坂幸一郞
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役二年六月に処する。
押收にかかるコツトンシヤツ一枚(証第一号)ズボン一枚(証第二号)は被害者中里保太郞に還付する。
訴訟費用は被告人と原審相被告赤坂石藏との連帯負担とする。
理由
弁護人吉村五郞の控訴趣意について。
職権を以て調査するに、犯行當時被告人が心神喪失乃至心神耗弱の状態にあつたことは法律上、刑の減免の原由たる事実であるから、被告人又は弁護人からこの精神状態の存在を主張する限り、原審は必ずこれに対する判断を判決に示さなければならないものなるところ、原審第一回公判調書に依れば、被告人は刑事訴訟法第二百九十一条に依る陳述において「私はその日相当酒を飮んで醉つていたから、どうして中里保太郞の家に行つたものか其処の人達にどんなことをしたのか、そのことは何も判りませんが只其処の家に行つて千円貸せと云つたことは少し知つて居ります」と陳述しているのみならず、同第二回公判調書中最終の陳述として、「私達は当時酒を沢山飮んでいたから、頭がもうとなつて、あと先も考えないで、斯の様なことをしたのであります」との記載があるのであるから以上を綜合して本件においては、被告人が犯行当時心神耗弱の状態にあつたと主張したものと解するのが相当である。しかるに原判決にはこれに対する判断が説示されている形跡が認め得られないので、原判決には判決に示すべき判断を遺脱した違法があると云わなければならない。されば弁護人の控訴趣意に対する判断は、後記破棄自判において判断するから茲では省略し、原判決はこれを破棄するを相当とする。